乳房痛や硬結や乳頭分泌などの臨床症状、嚢胞や石灰化などの画像所見を呈する状態に対して、以前から総称的な疾患名として「乳腺症」が用いられています。しかし、これらの状態が疾患ではなく、『乳腺の正常な発達と退縮(生理的な変化)からの逸脱: Aberrations of normal development and involution (ANDI)』であるという概念が出現してからは、「疾患名としての乳腺症」は使用されない方向となっています。
”乳房痛”で、画像検査などにより炎症や腫瘍性病変がないと確認された場合には、女性ホルモンのアンバランス(エストロゲンのプロゲステロンに対する相対的過剰状態)に起因するもので、疾患ではないと考えるという思考です。
しかし、「乳腺症」という用語が,現場で広く使われてきている経緯から、保険病名を含めて、定義も曖昧なまま現在でも便利に使用されているのが実状です。
病理診断で言う「いわゆる乳腺症」でくくられる良性の変化には、乳管過形成、小葉過形成、腺症、線維症、嚢胞、アポクリン化生、線維腺腫性過形成などの組織学的変化が含まれます。本来、病理学的に組織診断されたものは、その診断名で表現して対応するのが適切です。例えば、退行性変化変化である嚢胞は乳がんのリスク因子ではなく心配ありませんが、増殖性変化の中でも異型乳管過形成はハイリスクとして慎重な経過観察が必要となります。
便利に広く使用されている「乳腺症」という用語が、どういった状況で使用されているのかで意味合いが異なります。ご確認いただければと思います。