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お知らせ

HER2陽性乳がんー昔と今

  • morishima4
  • 1 日前
  • 読了時間: 2分

乳がんのサブタイプのひとつであるHER2陽性乳がんは、全体の約15−20%を占めます。HER2(ハーツー)とは、細胞の表面にある受容体型タンパク質で、細胞増殖のシグナルを伝える役割を持っています。このHER2が過剰に発現していると、増殖ス ピードが速いことになります。

進行が早く、再発しやすい厄介なタイプとされていましたが、1998年にHER2に対する分子標的薬であるトラスツズマブ(ハーセプチン)が登場し、その高い治療効果から評価が変わりました。

トラスツズマブはHER2タンパクに結合して細胞増殖を抑え、免疫細胞による攻撃(ADCC作用)も誘導します。その後、ペルツズマブ(パージェタ)が加わり、二重にHER2をブロックすることでより高い効果が得られるようになりました。2剤が合わさった皮下注射製剤(フェスゴ)も登場しています。

さらに進化したのが、抗体に抗がん薬を結合させたADC(抗体薬物複合体)製剤です。代表的なものがT-DM1(カドサイラ)やトラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)で、HER2を目印に薬をピンポイントで届けることで効果を発揮します。トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)は、細胞内に取り込まれて抗がん剤を放出して隣接する細胞にも作用する「バイスタンダー効果」によって、HER2低発現の 乳がんにも効果があります。

また、細胞内のシグナル伝達経路を抑えるチロシンキナーゼ阻害薬であるラパチニブ(タイケルブ)も登場し、脳転移などの再発例における治療の幅が広がっています。

術前化学療法でがんが完全に消える割合(pCR)が40〜60%あり、臨床試験でのトラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)を含むレジメンでは70%近くに達するという報告もあります。

これらの薬剤費が高いのは現実的な問題ですが、医療保険制度や高額療養費制度により、実際の自己負担額は一定に抑えられます。何より、これらの薬剤によって生存率と再発抑制効果が大幅に改善している点は非常に大きな進歩といえます。今では、早期例であれば治癒が十分に期待できるタイプとなり、再発例でも長期生存が可能な時代に入っています。

かつては「タチが悪い」と言われたHER2陽性乳がんですが、今では「そのタイプでよかった」と前向きに捉えられるようになっています。

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